「或る日記」宇野千代宇野千代全集 第11巻 随筆 3作者: 宇野千代出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 1978/05メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (1件) を見る

1897年生まれの女性の、1976,7年頃の日記。
いかにも紙に鉛筆で書かれた日記と言う感じがする。
文章が簡潔でそぎ落とされてて深い。
一日に書いてるのは原稿用紙にたぶん2枚くらい。きっと今だったらケータイで簡単に閲覧できるくらいの量だと思う。だけど不思議と読むのに時間がかかる。
しっかり噛み締めて読んでいるからだと思う。
キーボードを使ってブラインドタッチで文字を綴ればきっと宇野千代さんの何倍もの量の文章を作ることができると思う。思ったことをそのままディスプレイに表示させることができる。おれはそういう文章にあこがれてきた。一日に千文字も二千文字も書きたい。
ネバーエンディングストーリーに出てくる書記みたいに、この世の出来事を全て記録したい。 今でもそう思う。(もちろんそれはちょっと難しい。)
宇野千代さんの日記はまるで逆だ。なのに情景が浮かぶし伝わるものがある。
手書きでしっかり文章を書くことも大切なのか。
 
宇野千代さんが80歳近くなったときの日記だけど毎日凄く前向きで、家を建てようとか旬の果物をたくさん食べようとか、友達の老女がどうしたとかなんだ充実した生活だなあと感心してしまった。昔を振り返って懐かしんだり、今のだめなことについて書いたりすることはほぼない。俺だったらあんときゃー良かったとか今の若いもんはよくわかんねえとか言いそうなもんだけど、宇野千代さんは言わない。だってまだ若いもんね。100までは生きるつもりだし。ちょっと悟ってるとこあるし。

「『ファンの1人でございます。』と書いた手紙が来た。『もう、お亡くなりになった方かと思っておりましたが、』と言う文面であった。私はおったまげてしまった。『もう、お亡くなりになった方かと、』と言う表現がどうにもおかしくなって、つい、声を上げて笑ってしまった。全くたまげてしまったのである。」
というかんじである。
 
 
ところでこの本は古本で買ったのだが、保存がよく全体的にきれいななかで唯一
「人生には、『もし、あのとき、』と思うことが何と多いかと、しみじみ考えました。」
という部分に鉛筆で傍線が引かれている。おそらく年配の人かとは思うが、どんな人がどんなことを思いながらこの部分に線を引いたのだろうかとぼんやり想像する。
線は消さないでおく。いつかこの本を読み返して、俺もまた今とは違う感想を持つかもしれないから。