会社ではいつも同じ課の人たちと昼食を食べている。
スポーツ用品店のチラシを見ていたら、みんなの少年時代の遊びの話になった。
かつてはあちこちに「裏山」という名の遊び場があって、
冬はそこでスキーやそり遊びをしていた。
うちの近所にも、泉山という名の小山があった。
20代、30代の職員のこどもの頃はミニスキーが流行っていたけれど、
課長(50歳手前)がこどもの頃は竹のスキーだったという。
そりは「ばしょり」(馬に引かせるそり)だったとか。
課長はほかにもメンコを油につけて強くして遊んでいたとか、
高校生のときに電車の路線を間違えてすごく不安だったことなんかを話してくれた。それから当時の市内の様子のこととかいろいろ。
昼休みをオーバーするくらい。
少年時代のことをほんとによく覚えている。
 
自分はどうだろう。
そんなにはっきりとこどもの頃のことを覚えているだろうか。
今と大してかわらないけど、10年前のことを克明に思い出せるだろうか?
否。
中学校の同級生の女の子を思い出せなかったくらいだから。
俺の中に残っていることなんてきっと課長の何分の一かだ。
今もこどもの頃も変わってないなきっと。何をしていたんだろう。

父親が家庭で多くをしゃべる人ではなかったから。
家族が食卓を囲んで今日有った事を話し合うような家じゃなかったから。
なんて原因を実家に押し付けてみたってしょうがない。
思い出は俺の中にしか存在しないんだから。

何でもいいから記憶を手繰り寄せてみる。
中二のときにBzの曲を口ずさんでいたこと。
ちょっと気になる女の子がいたこと。
その子の前でしったかぶりをして顔が真っ赤になったこと。
ちょっとずつでいいから掘り起こしていこう。
自分を探すことは自分のなかからいつもはじまる。