見えないものを見落として

8合目の山小屋で眠った。
和風ドミトリーというか、タコ部屋というか。
平屋建ての山小屋を無理矢理一階と中二階に改造したような、
仮眠を取る為だけに作られたような空間。
一応布団は敷いてあるけど、当然だが寝心地はいまいち。


隣の友人が寝る前にipodで音楽を聞いてた。
「すごくいいんだ。聞いてみる?」
イヤホン片方渡して聞かせてくれた音楽は、
おじさんが低い声で歌ってるオペラ。
友人は視聴して5秒くらいで「すごくいいでしょ?」と満足げに言う。
「…オペラだねー」としか返せない。


友人は「こんなに素晴らしい音楽なのに」
どうして伝わらないのか理解できないらしい。
さすがに自分だってオペラのような音楽である事は認識できる。
だが、それだけ。
それ以上のことはなにもわからないし聞き取れない。
いいのか悪いのか、それ以上にどこを評価したら良いのかも。
全く同じ音楽を聞いているのに。


そういうことってたまにある。
例えば、町で見かける犬。
見ただけで犬の種類や年齢、体調やその時の感情までわかってしまう人がいる。
でも分からない人にとってそれはどこにでもいる犬だ。
例えば、クルマ。
見ただけで車名、年式、装備やどこをいじっているかまでわかってしまう人がいる。
でも分からない人にとってクルマは全て同じクルマだ。
例えば、煙草。
銘柄がたくさんあり、味わいも香りもニコチン量も様々。
でも分からない人にとってそれらは全てただの有害な煙。


他にも例はいくらでもある。
言いたいのは、見える人には見える(分かる)世界ってたくさんあるんだってこと。
同じものを見聞きしても得られていない情報がたくさんある。
もっと知りたい。
オペラの良さだって、いつかきっとわかるはず。