いつか引っ越さなければならない

アパートでひとり勉強しようとしても、あっというまに集中力が切れて
テキストを放り出しぽかーんとするときがある。
よくある。


そんなときに自分の部屋を眺めながら考えてしまうのは、
いずれ引っ越さなければならない。そのときのことだ。


今住んでいるアパートは就職してこの土地に来たときから住んでいるので、もう4年以上お世話になっていることになる。働き始めると時間が本当にあっという間だ。たしか去年一回模様替えはしたし、割と綺麗好きなほうではあるけど、住み始めてから今日までそのままになっているところも結構ある。冷蔵庫なんて最初に置いてから一度も動かしてないし、本棚だって裏は埃だらけ。台所の壁紙は上のほうから黄ばんできている。これらの汚れは俺の生活の痕跡である。


このアパートは独身者専用なので、例えば結婚するときがきたら。実家に戻って両親と暮らすことになったら、あるいはこの土地を離れるときがきたら、居心地の良いこの部屋を引き払わなければいけなくなるだろう。4年間の生活の痕跡を消し去って、隅々綺麗に磨いて、次に住むことになる誰かに明け渡すことになるだろう。そのときは俺も新しい生活を始めることになるだろうから、馴染んだ生活の道具ともお別れだ。


電子レンジは、職場のがもうおんぼろだから休憩室に置いて使ってもらおう。冷蔵庫は、誰か貰ってくれるだろう。学生時代から使っている収納ボックスは、もうお別れすることになるのかな。8年以上存在感を示してくれたのにな。メタル製のラックは実家の部屋に置いておこう。去年引っ越していった人から貰ったFF式のストーブは、このアパートの誰かに貰ってもらおう。動く限りこのアパートで余生を過ごしてもらおう。ベッドやその他のものは会社のクルマを借りて一気に運んでしまうんだ。


そんなことを想像しながら部屋のあちこちを見ていると、しだいに部屋が広くなっていき、最後にはカーテンと空間だけが残る。引っ越してきた当初と同じ何もない部屋。空っぽの。




いつかはこの部屋を出て行かなければならない。
そのことを思うとせつなくて悲しくなって、勉強なんて手につかなくなる。
すぐ先のテストよりも、いつか起こることが100倍も不安。