香りの記憶

週末、盛岡までドライブに行った。
家から盛岡まではたぶん150キロくらい。(国道で)
最初は楽しかったんだけど、途中けっこうだるくなり距離を感じた。
無理して飛ばそうとするから疲れるんだろう。
のんびりドライブが長距離には合ってるのかな。
帰り道では電池が切れた俺に代わってにいみさんがステアリングを握った。
彼女がいなければ日帰り往復はできなかったかも。




盛岡には“the bodyshop”というお店があり、それは俺の住む街には無いのでちょっと興味深く覗いた。 にいみさんは小さな香水のビンを見つけ、「友達がこれ使ってるんだ」と言って嬉しそうに自分の手首につけていた。
しばらくしてから、ビンを見たときは気にも留めなかったがその香りを嗅ぐのは初めてじゃないような気がした。どこか覚えのあるような。何度か嗅いだことがたしか有ったような。


思い出した。
その香りは、大学時代にずっと仲の良かった女友達のものだ。
趣味が合う奴で、付き合っていたわけではないがたびたび会ったときにいろいろ話をしたりモノの貸し借りをしたりしていた。彼女はいつも、柔らかくその香りを纏っていた。ちょっとエキゾチックで少し女性っぽくて、穏やかな印象の香り。彼女にしっくり馴染んでいた。


ホワイトムスクの香りなのだそうだ。
にいみさんの友達は「香りはすごく記憶に作用するから、この香りで自分を覚えてもらいたい」、又聞きでうろ覚えだけどそんな理由でずっとホワイトムスクの香りを愛用しているのだそうだ。ロマンチックな娘なんだろうな。
友人はそんなことを考えるような人ではなかったと思うけれど、俺はまんまと、罠にはまったように感傷的な気分になって彼女のことを想う。今もホワイトムスクの香りを纏っているのかな、とか。


にいみさんの手首から漂う香りは、記憶のなかにある同じ香りよりも少し軽い感じがして。俺はにいみさんがホワイトムスクを愛用しないことを祈る。友人の印象を重ねてしまうのは申し訳ないから。
彼女には彼女だけのもっとぴったり似合う香りがあるだろうから。俺はそれを一緒に探したいと思った。