「BOOK]影との戦い―ゲド戦記 1作者: アーシュラ・K.ル・グウィン,ルース・ロビンス,Ursula K. Le Guin,清水真砂子出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1976/09/24メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 74回この商品を含むブログ (135件) を見る

ジブリで映画化もされたファンタジーの名作。「アースシー」世界を舞台に魔法使いゲドが活躍する。1から3作目まではゲドが活躍して世界を平和に導く物語。


深い。ファンタジーなのにものすごく内省的。モンスターの大群とかエルフとか骸骨の戦士とか、全然出てこない。映画になったとき映える人間と魔界の化け物の大戦争とか一切無し。そこがすごく意外だった。主人公は魔法使いだけど、魔法だって必要なときしか使わないし、普段はすごく地味。
英語の正式タイトルは「Earthsea」シリーズだったらしいけど、それと「ゲド戦記」という邦訳にどこか意識のズレがあるような気がする。


一作目は「影との戦い」なのだがハリウッド大作的な内容では全く無い。主人公ゲドが自分のうぬぼれによって呼び出した「影」に憑かれ、一人「影」と戦う物語。戦うと言っても「影」はゲドが生み出した存在であり、たった一体でたった一人にしか干渉して来ない。徹底して自分が問われる戦いなのだ。
自分の悪い心が犯した過ちに対して自分自身が決着をつけるという物語は決して空想の世界だとは言えないものだった。そしてその戦いの結末も。


それから、スタジオジブリ映画の「ゲド戦記」は3作目(と4作目)をモチーフにしている。あちこち変えてはいるけど。公開されたときは傑作か駄作かいろいろ論評されたようだし、先日映画を観た時は自分もいろいろ思うことはあったが、原作を読んで考えがはっきりまとまった。宮崎吾朗監督は一生懸命頑張ったんだ。
映画には父親を殺した王子アレンが登場するが、原作での彼は全てに恵まれた少年で父親ともうまくいっているようだった。父親を殺害する部分は監督の創作だったのだ。そこからなんとなく偉大すぎる父親と戦って必死に頑張る息子の姿が思い浮かんだ。映像化は難しかったような気もするけど、息子は息子なりによくやったんだ。


何十年経っても古びないテーマを持った、子供が出来たら読ませたいような作品だった。